【第2部】神々の島の究極のおもてなし。なぜバリ人の「敬いの心」は日本のサービス業と完璧に共鳴するのか?
- takeshi kawamoto
- 8月12日
- 読了時間: 5分
バリの精神性と日本の「おもてなし」の不思議な共通点
インドネシアという国の中でも、バリ島は特別な存在です。世界的な観光地として知られるこの島の人々が持つ独自の精神性は、日本のサービス業が追求する「おもてなし」の心と驚くほど深く共鳴します。この章では、バリ・ヒンドゥーの教えと、それが育む人々の気質を深く掘り下げ、いかに日本のサービス業にとって理想的なパートナーとなり得るのかを解き明かしていきます。
バリ・ヒンドゥーの教えが育む心
バリ島の人々の約9割が信仰するバリ・ヒンドゥー教は、インドのヒンドゥー教に古来のアニミズムや祖先崇拝が融合した、バリ島独自の宗教です。その教えは、人々の日常生活や価値観、行動様式の隅々にまで浸透しており、彼らの穏やかで心優しい気質の源泉となっています。
トリ・ヒタ・カラナ(Tri Hita Karana) - 三つの幸福の原因: これはバリ・ヒンドゥー教の根幹をなす哲学であり、「神と人」「人と人」「人と自然」という三つの関係性の調和こそが幸福をもたらすという教えです [15]。この世界観は、自分だけでなく、周囲の人間や環境との調和を常に意識する行動を促します。お客様(人と人)、職場環境(人と自然)、そして仕事に対する真摯な姿勢(神と人、あるいは仕事への献身)のすべてを大切にするという考え方は、まさにおもてなしの精神そのものです。
カルマ・パラ(Karma Phala) - 行為とその結果: 自分の行いは、良いことも悪いことも、いずれ自分に返ってくるという因果応報の考え方です 。この教えは、バリの人々にとって、他人に対して親切に振る舞い、誠実であることの強力な内的動機付けとなります。サービス業において、見返りを直接求めずとも、お客様のために善い行いを尽くすことが、自らの幸福につながると自然に信じているのです。これは、マニュアルを超えた心からのサービスを生み出す土台となるのです。
ンガヤ(Ngayah) - 無償の奉仕: バリのコミュニティには「ンガヤ」と呼ばれる、寺院の儀式や村の共同作業に対して、見返りを求めず無償で奉仕するという習慣が根付いています 。労働や奉仕が、必ずしも金銭的な対価と結びついているわけではないのです。この精神は、「誰かのために尽くすこと」そのものに喜びや価値を見出す心を育みます。お客様へのサービスが単なる「業務」ではなく、心からの「奉仕」として提供されるとき、それは最高のおもてなしになるでしょう。
ルワ・ビネダ(Rwa Bhineda) - 二元論の調和: この世界は「善と悪」「聖と俗」「生と死」といった相反する二つの要素のバランスの上に成り立っているという考え方です 。この教えは、物事の一面だけを見て判断するのではなく、全体を包括的に受け入れる寛容な精神を育みます。予期せぬトラブルや、時に理不尽な要求をするお客様に対しても、冷静さを失わず、忍耐強く対応できる精神的な強さの背景には、この二元論的な世界観があるのかも知れません。
自然観と共同体意識:日本とバリの精神的共通点
バリの人々の精神性は、古来の日本の価値観とも多くの共通点を持っています。この精神的な共鳴は、異文化間のスムーズな相互理解を可能にする重要なポイントです。
アニミズムに根差した自然観: バリ・ヒンドゥーが山や海、木々や岩に神々や精霊が宿ると信じるように、日本の神道もまた「八百万の神」という言葉に象徴されるように、森羅万象に神性を見出すアニミズム的な世界観を持っています 。自然への畏敬の念という、両文化の根底に流れる共通の精神性は、言葉を超えた深いレベルでの共感を生み出す可能性があります。
共同体を重んじる心: バリ社会の基盤となっているのが「バンジャール」と呼ばれる、日本の町内会や村落共同体をより強力にしたような自治組織です [16, 17, 18, 19, 20, 21]。冠婚葬祭から宗教儀式、村の問題解決まで、あらゆる事柄がバンジャール単位で協力して行われます。個人の都合よりも共同体の調和や決定が優先されるこの仕組みは、かつての日本の「村社会」が持っていた、強い連帯感や相互扶助の精神と通じるものがあります。この「お互い様」の精神(Sama-sama)は、チームで協力し、お客様という「共同体」の一員をもてなすサービス業の現場において、大きな強みとなり得ます。
祖先を敬う文化: バリには「ガルンガン」「クニンガン」という、祖先の霊がこの世に帰ってくる期間を祝う大きなお祭りがあります。これは、日本の「お盆」の習慣と非常によく似ており、目に見えない存在や先祖とのつながりを大切にするという共通の価値観があることを示しています。
最高の資産:サービス業で輝くバリ人の「敬意」と「笑顔」
これらの宗教的・文化的背景から育まれるバリ人の特性は、サービス業において最高の資産になるのです。
心からの笑顔: バリを訪れた多くの人が、彼らの笑顔に心を癒されたと語ります。それは、単に接客業としての訓練された笑顔ではなく、彼らの根底にある楽天性、穏やかさ、そして人懐っこさから自然に生まれるものです。この本物の笑顔が持つ力は絶大であり、お客様に安心感と喜びを与える上で、どんな高価な設備にも勝る価値があると言えるでしょう。
内面から滲み出る敬意: バリの文化は、他人、特に年長者やお客様に対する敬意を非常に重視します。彼らの言葉遣いや立ち居振る舞いには、相手を尊重し、場の調和を保とうとする姿勢が自然に表れます [28]。この生まれ持ったかのような丁寧さは、日本のサービス業が求める礼儀正しさと完全に一致します。喧嘩や自己主張を好まない穏やかな気質は、クレーム対応などストレスのかかる場面においても、冷静かつ真摯な対応を可能にします。
このように、バリの人々が日本のサービス業と高い親和性を持つという直感は、単に「性格が明るい」といった表層的なものではなく、バリ・ヒンドゥーという一貫した哲学的・社会的システムが、日々の生活の中で「他者への奉仕(ンガヤ)」「善行の実践(カルマ)」「あらゆるものとの調和(トリ・ヒタ・カラナ)」といった、おもてなしの核心となる美徳を育み続けていることにあることは分かります。外国人雇用を検討されている企業は、是非、個々の労働者の資質を見るのではなく、その背後にある精神的、文化的な背景にも目を受けることで、より自社にマッチした人材を雇用することができることにつながります。
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