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【入管関連ニュース】経営管理ビザが大幅厳格化:資本金3,000万円時代の到来。変更点と今後の対策を徹底解説

2025年に予定されている在留資格「経営・管理」(以下、経営管理ビザ)の要件改正は、単なる微調整ではなく、日本の外国人起業家受け入れ政策における根本的なパラダイムシフトを意味します。これは過去数十年で最も抜本的な厳格化であり、日本がこれまで維持してきた幅広いアクセシビリティから、より高い選別性へと舵を切る明確な意思表示です。

この政策転換は、日本での起業を目指す外国人だけでなく、すでに日本で事業を営む約4万人の経営管理ビザ保持者にも、広範な不安と懸念を巻き起こしています 。本稿の目的は、憶測を排し、明確かつ証拠に基づいた分析を通じて、この新たな法的状況を解き明かす決定的なガイドとなることです。具体的には、新要件の詳細な解説、政府の多層的な政策的意図の分析、新規申請者と既存ビザ保持者で異なる影響と対策、そして今後の具体的な手続き(今後のフロー)とスケジュールを網羅的に解説します。


新たな試練:2025年ビザ要件の徹底解剖


申請基準に加えられた具体的な変更点を詳細に分析し、これらが外国人起業家にとって、いかに高く、新たなハードルとなるかを明らかにします。


3,000万円の壁:資本金要件の6倍増


今回の改正で最も象徴的な変更は、最低資本金または投資額が従来の500万円から3,000万円へと、実に6倍に引き上げられる点です 。

従来の500万円という基準は、旧「投資・経営」ビザの時代から長らく維持されてきました 。しかし、その後の日本の経済成長や近年の円安進行により、この金額の実質的な価値は大幅に低下し、主要先進国の中では異例なほど低い参入障壁となっていました 。

この変更は、それ自体が申請者のプロファイルを根本的に再定義するものです。小規模なスタートアップ、ライフスタイルを主目的とした事業、投機的なベンチャーは事実上排除され、潤沢な自己資金を持つ、本格的な事業運営を前提とした申請者に焦点が絞られることになります。


選択肢から義務へ:新たな雇用要件


従来の制度では、「資本金500万円以上」または「常勤職員2名以上の雇用」のいずれかを満たせばよいという選択制でした 。しかし、新制度ではこれが義務となり、「資本金3,000万円以上」かつ「常勤職員1名以上の雇用」の両方を満たすことが必須となります 。

ここでいう「常勤職員」とは、日本人、特別永住者、永住者、または就労に制限のない在留資格(日本人の配偶者等など)を持つ者に限定されるという点が極めて重要です 。

この変更は、資本金の増額と同等、あるいはそれ以上に大きな影響を持つ可能性があります。これまで経営管理ビザ申請者の大半を占めてきたITコンサルティング、貿易業、不動産業などの「一人社長」モデルの事業形態は、その存立基盤が根本から揺らぐことになります 。新制度は、事業開始初日から日本の労働市場への貢献を強制し、人件費や社会保険料といった運営上の複雑性とコストを大幅に増加させるものです。


経営能力の証明:経営者要件と事業計画審査の導入


新制度では、申請者の資質を問う定性的な要件も導入されます。具体的には、「3年以上の事業の経営または管理の実務経験」または「経営・管理に関連する大学院の修士号(またはそれに相当する学位)の取得」が求められるようになります 。

さらに、提出する事業計画書は、出入国在留管理庁への提出前に、公認会計士や中小企業診断士といった第三者の専門家による事前確認(Vetting)が原則として義務付けられます 。

これは、審査の重点が単なる財務的・構造的な評価から、申請者個人の能力と事業の実現可能性という質的な評価へと移行したことを示す重要な変化です。政府はもはや「資金はあるか?」と問うだけでなく、「経営スキルと実現可能な計画はあるか?」と問うようになります。専門家による事前確認の義務化は、事実上、入管のデューデリジェンスの一部を民間セクターに委託するものであり、専門家としての説明責任という新たなレイヤーを加えるとともに、申請にかかる初期費用と手続きの複雑性を増大させます。


表:経営管理ビザ要件の新旧比較(2025年10月改正前後)


評価基準

現行制度(2025年10月中旬まで)

新制度(2025年10月中旬以降)

主要な示唆・分析

資本金・投資額

500万円以上 または 常勤職員2名以上

3,000万円以上 かつ 常勤職員1名以上

資本金が6倍に増加し、主要な参入障壁となる。潤沢な資金を持つ事業に限定される。

雇用

任意(資本金要件を満たす場合)

必須(常勤の居住者職員1名以上)

一人起業家モデルの事業が成り立たなくなる。即時の国内雇用創出と高い運営コストが必須に。

経営能力

明示的な要件なし

3年以上の経営経験 または 関連分野の修士号

申請者の実績ある能力に焦点が移行。経験の客観的評価が重要な要素となる。

事業計画書

入管に直接提出

公認会計士等、認定専門家による事前確認が必須

専門家による精査が加わり、コストと複雑性が増大。事業の実現可能性に対する立証責任が重くなる。

これらの変更点が組み合わさることで、個々の要件の総和をはるかに超える相乗的な障壁が生まれます。申請者は単に3,000万円を用意するだけでは不十分です。その資金に加え、初日から従業員を雇用することを正当化できる専門家のお墨付きを得た事業計画、そして経営者としての信頼性を担保する個人的な経歴のすべてを同時に満たさなければなりません。これは、理想的な外国人起業家像の全体的な再定義に他なりません。この結果、申請総数は大幅に減少する一方で、事前審査を経た質の高い申請者の許可率は向上する可能性があります。出入国在留管理庁の業務は、大量の申請をふるいにかける作業から、より少数の複雑な案件を深く分析する作業へと質的に変化していくでしょう。


「壁」の背後にあるもの:政府の政策的意図を解き明かす


この抜本的な政策変更を推進する多層的な動機を探ります。公式発表の裏にある経済的、社会的、そして政治的な背景を分析します。


ビザの不正利用と「ペーパーカンパニー」対策


厳格化の最も直接的な動機は、ビザ制度の悪用防止です。特に、事業実態のない「ペーパーカンパニー」を設立し、実質的な移住の抜け道として利用するケースが問題視されていました 。日本語能力や学歴、職歴が問われないため、500万円という基準が、日本での居住を求める人々にとって最も抵抗の少ない経路となっていたのです 。この状況は「金で買えるビザ」と揶揄されることもあり、事業経営ではなく移住を主目的とする申請の増加を招いていました 。

今回の改正は、この制度的脆弱性に対する直接的な回答です。財務的・運営的なハードルを劇的に引き上げることで、居住目的のためだけに「ペーパーカンパニー」を設立・維持するコストと難易度は、非現実的なレベルにまで高められます。


グローバルスタンダードとの整合性と国家の信頼性維持


日本の500万円という要件は、他の先進国と比較して著しく低い水準でした。例えば、韓国では同様のビザに約3億ウォン(約3,000万円)、米国では10万ドルから20万ドル(約1,500万~3,000万円)程度の投資が求められます 。

この格差は、日本のビザを「格安ビザ」と見なさせ、国際的な評価を損なうと同時に、真剣度の低い申請者を引き寄せる一因となっていました 。したがって、今回の改正は国際的な規範に合わせるための戦略的な動きでもあります。これにより、日本が経済的な競合国と同等の質の起業家を求めているというメッセージを国際社会に発信し、ビジネス移民プログラムの権威と信頼性を高める狙いがあります。


戦略的転換:「量」から「質」へ


今回の改正は、「量より質へ」という明確な政策転換を体現しています 。政府の目標は、単に外国人経営者の数を増やすことではなく、日本経済に対してより大きく、持続可能な貢献ができる、質の高い起業家層を誘致することにあります。

これは洗練された政策判断と言えます。政府は、資金力が乏しい多数の零細企業よりも、成長、イノベーション、雇用創出のポテンシャルが高い、一つの潤沢な資金を持つ企業の方が、経済全体にとって価値があるという判断を下したのです。

さらに、この政策変更の背景には、一見すると分かりにくい、間接的な社会的・行政的コストの問題も存在します。経営管理ビザの保持者は、扶養家族を「家族滞在」ビザで呼び寄せることが可能です 。しかし、日本語能力が不十分なまま来日した子供たちの言語教育が、地域の公立学校に大きな負担を強いているという指摘がありました 。これは、中央省庁(出入国在留管理庁)が設定した低いビザのハードルが、その結果生じる財政的・行政的負担(教育コスト)を地方自治体に転嫁しているという構造を示唆しています。したがって、今回の厳格化は、単なる経済政策や不正防止に留まらず、中央政府が自らの寛容な政策が地方にもたらしていた負の外部性を抑制しようとする、政府内部の力学も反映した動きであると分析できます。これは、移民政策を社会インフラ、地方財政、長期的な社会統合といったより広い文脈で捉えようとする、日本政府の戦略的思考の深化を示しています。


移行期を乗り越える:新規申請者と既存ビザ保持者のためのガイド


これから申請する人々と、すでに日本に在留している人々とで明確に分けて、実践的かつ具体的なアドバイスを提供します。


これから起業を目指す方へ:新たな航路図


新たな要件は、申請者にとって極めて高いハードルとなります。潤沢な資金を確保し、初日からの従業員雇用を正当化できる事業計画を策定し、かつ経営者としての実績を証明する必要があります。

  • 財務計画: 3,000万円は使途が明確で、出所が追跡可能な資金でなければなりません。いわゆる「見せ金」はこれまで以上に厳しく精査されるでしょう 。ベンチャーキャピタル、エンジェル投資家、あるいは相当額の個人資産など、具体的な資金調達計画が不可欠です。

  • ビジネスモデルの再構築: 事業モデルは、当初から最低1名の従業員を組み込む形で再考する必要があります。これには給与、社会保険、その他の人件費を事業計画に盛り込むことが求められます。

  • 専門家との連携: 事業計画の策定段階の早い時期から、公認会計士などの専門家と連携し、義務化された事前確認に備えることが必須となります 。


現在のビザ保持者へ:新時代における更新手続き



遡及適用はされない


新たな資本金・雇用要件が、ビザ更新を申請する既存の保持者に対して遡及的に適用される可能性は極めて低いと思われます 。これは、法の不遡及の原則や既得権益の保護という観点に基づくものです。すでに事業を営む数万の経営者に対し、突如として2,500万円の追加増資を求めることは、経済的混乱と法的な異議申し立てを招くため、現実的ではありません 。この点は、約4万人の既存ビザ保持者にとって最も重要な情報であり、過度な懸念を和らげるものです。


更新時の新たなハードル:「事業活動内容の説明書」


一方で、既存保持者に対する審査が甘くなるわけではありません。2025年7月以降、ビザ更新申請時に「直近の在留期間における活動内容を説明する文書」の提出が新たに義務付けられました 。

この文書には、実際の業績、取引先、事業活動の流れ、主要な変更点、今後の事業計画などを具体的に記載することが求められ、「ミニ事業計画書あるいは事業報告書」のような性質を持つとされています 。

これは、政府が既存のルールを変更することなく、既存保持者への審査を厳格化するためのメカニズムです。更新審査の焦点は、単なる構造的な確認(「会社は登記上存在するか?」)から、実質的な業績評価(「その会社は真に活動し、存続可能な事業か?」)へと移行します。これにより、名目だけの会社や事業活動が極端に乏しい会社は、更新が不許可となるリスクが非常に高まります 。


更新に向けた戦略的アドバイス


  • 緻密な記録管理: 契約書、請求書、銀行取引履歴、議事録など、あらゆる事業活動を日頃から丁寧に記録・保管することが重要です。

  • 事業の継続性の証明: 事業が単に存続しているだけでなく、積極的に経営され、将来性があることを証明することが鍵となります。これには、黒字経営(または黒字化への明確な道筋)、安定した顧客基盤、具体的な事業計画の提示が含まれます。

  • 専門家によるレビュー: 提出前に、行政書士や会計士に決算書や新たな「説明書」を確認してもらい、事業の正当性と継続性を最も説得力のある形で提示できるよう準備することを推奨します。

新規申請者には高い壁を、既存保持者には高い業績基準を課すというこの二元的なアプローチは、非常に巧みな長期戦略です。これにより、旧来の低資本で設立され、事業性が低い企業は、更新時の厳しい業績審査をクリアできずに、今後5年から10年かけて自然に淘汰されていくことになります。一方で、新規参入者はすべて高資本の企業となります。この結果、政府は、大規模な遡及適用という法的・経済的ショックを伴わずに、時間をかけて外国人経営者コミュニティ全体の質を、自らが望む「量より質」のプロファイルへと着実に再構築していくことができるのです。


公式ロードマップ:今後のフローとスケジュール


ユーザーの「今後のフロー」という問いに直接応えるため、明確で実行可能なタイムラインと、新たな手続きのステップ・バイ・ステップガイドを提供します。


施行までの道のり


政府の動きは迅速です。改正案に関するパブリックコメント(意見公募)の期間は2025年9月下旬に締め切られる予定です 。そして、新制度の施行目標は2025年10月中旬とされています 。

意見公募から施行までの期間が短いことは、政府の強い決意を示しています。これにより、旧制度の駆け込み申請が殺到するのを防ぎ、制度移行を円滑に進める狙いがあります。このタイトなスケジュール自体が、移行を管理するための戦略的なツールなのです。もし1年も前に変更が告知されていれば、質の低い申請が殺到し、入管業務が麻痺すると同時に、新制度が排除しようとしている層が大量に旧制度下で認可されてしまうという本末転倒な事態を招きかねません。この迅速な移行は、制度の「抜け駆け」を防ぐための、行政プロセスと人間行動を理解した上での洗練された政策実行と言えます。


新規申請のフロー


今後、新規で経営管理ビザを申請する場合の典型的な流れは以下のようになります。

  1. 自己適格性の確認: 3年以上の経営経験または関連分野の修士号という経営者要件を満たしているかを確認します。

  2. 資本形成: 3,000万円以上の投資資金を確保し、その出所を証明する資料を準備します。

  3. 事業計画の策定と専門家による確認: 詳細な事業計画を作成し、公認会計士などの専門家と契約して、義務付けられた事前確認と証明を受けます。

  4. 会社設立と事務所契約: 株式会社(K.K.)または合同会社(G.K.)の設立手続きを完了し、物理的な事業所を確保します。

  5. 従業員の雇用: 最低1名の常勤職員(日本人または永住者等)を雇用し、雇用契約を締結します。

  6. 申請書類の提出: 専門家による確認済みの事業計画書や雇用契約書を含むすべての必要書類を揃え、出入国在留管理庁に申請します。


更新申請のフロー


既存のビザ保持者が更新を行う際の一般的な流れは以下の通りです。

  1. 事業活動の記録: 在留期間を通じて、すべての事業活動に関する記録を体系的に維持します。

  2. 財務書類の準備: 決算報告書など、標準的な財務書類を準備します。

  3. 「活動内容の説明書」の作成: これが新たな重要ステップです。業績、顧客との関係、完了したプロジェクト、将来戦略などを、証拠資料を添えて詳細に記述した報告書を作成します。

  4. 申請書類の提出: 通常の更新書類一式に、新たな「説明書」を加えて出入国在留管理庁に提出します。在留期限が切れるかなり前に提出することが推奨されます。


結論:日本の新たなビジネス移民環境への適応


今回の改正の核心は、3,000万円の資本金要件、常勤職員の雇用義務、そして経営能力と事業計画の専門家による事前確認という3つの柱に集約されます。これにより、日本が外国人起業家にとって「容易」あるいは「低コスト」な目的地であった時代は、明確に終わりを告げました。日本は今、真剣で、潤沢な資金を持ち、経験豊富なビジネス経営者を明確に求めているのです。

この新たな現実に対し、関係者は以下のように適応していく必要があります。

  • 起業を目指す申請者へ: 莫大な資本、専門家のお墨付きを得た堅牢な事業計画、そして証明可能な実績が、もはや交渉の余地のない必須条件となりました。日本で小規模なビジネスを始めるという夢は、今や米国や他の主要経済国に移住するのと同レベルの準備とリソースを要求します。

  • 既存のビザ保持者へ: 焦点は、単なる法人の存続から、証明可能な事業実績へと移行しなければなりません。緻密な記録管理と、真正かつ継続的な事業活動の説得力ある物語を構築する能力が、長期的な在留を維持するための新たな鍵となります。


障壁は格段に高くなりましたが、それを乗り越えた者にとっての潜在的なリターンは、より大きなものになるかもしれません。政府の政策転換が成功すれば、よりダイナミックで強固な外国人主導の企業エコシステムが育まれ、長期的には日本のイノベーションと経済貢献を促進する可能性があります。環境は変わりました。そして、適応こそが前進するための唯一の道です。とはいうものの、今回の要件厳格化は、今後の手続きにおいて大きな負担となることは間違いありません。経営管理ビザの取得を検討されている方は、一日でも早くお問い合わせください。



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