【最新のニュースから紐解く外国人雇用と不法就労】知らなかったでは済まされない不法就労と外国人雇用
- takeshi kawamoto
- 7月24日
- 読了時間: 6分
① ニュースの概要
2025年7月24日、東京高等裁判所は、外国人に不法就労をさせた場合、事業主側に過失がなくても強制的な国外退去(退去強制)の対象とする入管法の解釈は「妥当」であるとの判断を示しました。
この訴訟は、人材派遣会社で契約社員として働いていた外国人女性が、不法就労を助長したとして退去強制の対象と認定されたことに対し、その取り消しを求めていたものです。女性は、面接を担当したベトナム人が、実際には就労資格のない人物であることを見抜けませんでした。刑事罰としての不法就労助長罪には「故意や過失」が必要とされますが、行政処分である退去強制には同様の規定がなく、この法解釈の是非が争点となっていました。
高裁判決は、国の「過失不要」とする主張を全面的に支持。さらに、女性の過失の有無についても踏み込み、新型コロナウイルス下を理由に面接でマスクを外させて本人確認をしなかった点について、「マスクを外させていればなりすましを認識できた」として過失があったと認定しました。
この判決は、外国人雇用における事業主の責任の重さを改めて浮き彫りにするものです。たとえ刑事罰に問われなくとも、不法就労に関与したと見なされれば、外国人事業主自身が退去強制という極めて重い処分を受ける可能性があること、そして、本人確認における注意義務が非常に高い水準で求められていることを示しています。
② 論点
このニュースは、外国人雇用に関わるすべての事業主に対し、いくつかの重要な論点を提示しています。
論点1:「不法就労助長罪」の重さと「過失」の概念
外国人雇用における最大のリスクは「不法就労助長罪」です。これは、不法就労と知りながら外国人を雇用した場合だけでなく、不法就労であると知らなかった場合でも、確認を怠るなどの「過失」があれば処罰の対象となる、極めて厳しい法律です 。
今回の判決は、刑事罰とは別に、行政処分である退去強制においては、この「過失」すら問われずに処分が下される可能性があるという、さらに厳しい現実を示しました 。事業主(特に外国人経営者)にとっては、従業員の不法就労が、自らの事業基盤と生活を根底から覆す退去強制に直結しうるという、極めて重大なリスクです。
罰則も厳しく、現行法では「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」ですが、2025年6月からは「5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金」へと大幅に強化されます 。
論点2:そもそも「不法就労」とは何か?
事業主が「させてはならない」不法就労には、主に3つのパターンがあります 。
不法滞在者・被退去強制者を働かせる
在留期間を超えて滞在している(オーバーステイ)
密入国した
退去強制が決定している
就労が許可されていない在留資格で働かせる
「短期滞在」(観光目的など)や、原則就労不可の「文化活動」などの資格で雇用する 。
「留学」や「家族滞在」の資格を持つ外国人を、後述する「資格外活動許可」なしに雇用する 。
許可された活動範囲を超えて働かせる
職種の逸脱:料理人(在留資格「技能」)を工場のライン作業に従事させるなど、資格と異なる業務をさせる 。
時間の超過:「留学」ビザの学生を、法律で定められた週28時間を超えて働かせる 。
所属機関の逸脱:「特定技能」や「技能実習」の外国人を、許可された企業以外で働かせる 。
これらのいずれかに該当すれば、不法就労となり、させた側の事業主も罪に問われます。有名ラーメン店「一蘭」が留学生を法定時間を超えて働かせたとして書類送検された事例は、特に3つ目の「範囲超過」のリスクの大きさを示しています 。
③ 不法就労に問われないためには
「知らなかった」では済まされない以上、事業主は意図せぬ違反を防ぐために、具体的で厳格な確認プロセスを社内に定着させる必要があります。
ステップ1:在留カードの「原本」を徹底的に確認する
外国人採用の第一歩は、在留カードの原本を確認することです。コピーや写真データでの確認は、偽造を見抜けず、過失を問われる原因となります 。
表面のチェックポイント
① 顔写真:目の前の本人と同一人物か確認します。
④ 在留資格:どのような活動が許可されているかを確認します。(例:「技術・人文知識・国際業務」「永住者」など)
⑤ 就労制限の有無:
「就労制限なし」:原則、日本人と同様に働けます。(「永住者」「日本人の配偶者等」など)
「在留資格に基づく就労活動のみ可」:採用予定の職務内容が、資格の範囲内か慎重に確認が必要です。
「就労不可」:原則、雇用できません。必ず裏面の確認が必要です。(「留学」「家族滞在」など)
⑥ 在留期間(満了日):期限が切れていないか確認します。
裏面のチェックポイント
資格外活動許可欄:表面で「就労不可」の場合、この欄が生命線です。「許可(原則週28時間以内・風俗営業等の従事を除く)」などの記載があれば、その条件の範囲内でアルバイト雇用が可能です。この記載がなければ絶対に雇用できません。
在留期間更新等許可申請欄:表面の期限が切れていても、この欄に更新申請中のスタンプがあれば、特例として最大2ヶ月間は就労が可能です。
ステップ2:公式ツールで「偽造」と「失効」を二重チェックする
近年の偽造カードは精巧化しており、目視だけでは不十分です。過失を問われないためには、国が提供する無料ツールを活用した二重のチェックが不可欠です。
1. 失効情報の照会
まず、出入国在留管理庁のウェブサイト「在留カード等番号失効情報照会」を利用します。カード番号と有効期限を入力することで、そのカードが盗難などで失効届が出ていないかを確認できます 。
注意点:ここで問題がなくても、カードが本物である証明にはなりません。有効な番号をコピーした偽造カードの可能性があるため、次のICチップ確認が必須です。
2. ICチップ情報の読取り(最重要)
偽造を見破る最も確実な方法が、出入国在留管理庁の公式アプリ「在留カード等読取アプリケーション」の利用です 。
方法:
スマートフォン(iPhone/Android)や、ICカードリーダーを接続したPCにアプリをインストールします 。
アプリを起動し、在留カードのICチップ部分をかざして情報を読み取ります。
アプリ画面に表示された顔写真や氏名、在留資格などの情報と、手元の物理的なカード券面の情報が完全に一致するかを一つひとつ照合します。
異常時の対応:ICチップが読み取れない、または表示情報と券面が異なる場合は、偽造の可能性が極めて高いため、速やかに最寄りの地方出入国在留管理官署へ通報・相談してください 。このICチップの確認を怠った場合、「必要な注意を尽くした」という主張は困難になります。
ステップ3:雇用後の継続的な管理
採用時の確認だけで終わりではありません。
在留期間の管理:全従業員の在留期間満了日をデータで管理し、期限前に更新を促す仕組みを構築します。永住者であっても在留カード自体の有効期限は存在するため、更新管理が必要です 。
ハローワークへの届出:外国人(特別永住者等を除く)の雇入れ・離職の際は、必ずハローワークへ「外国人雇用状況届出書」を提出します。怠ると罰金の対象となります 。
労働時間の管理:「留学」ビザなど時間制限のある従業員については、週28時間の上限を超えないよう、勤怠システムなどで厳格に管理することが重要です 。
外国人材は、今後の日本経済にとって不可欠な存在です。しかし、その雇用には重大な法的責任が伴います。今回の判決を機に、自社の管理体制を改めて見直し、法的リスクを回避するための確実な仕組みを構築することが、すべての事業主に強く求められています。
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